恩師に憧れて教員に
-球団のスカウトになる前は高校の教員だったとのことですが、変わった経歴ですよね。
大渕: 「高校の教員になりたい」と思っていたんですけど、それは社会人経験を積んでからでも遅くはないと思っていたことと、ある程度は野球も続けたかったので、大学卒業後は日本アイ・ビー・エム株式会社(IBM)に勤務し同社の野球部に所属しました。
その後約7年で退社し、新潟県の教員採用試験を受けて教員に。
-野球を続けたい、と思ったら実業団で強いところに行ったり、プロを目指すという道もあった訳ですよね?
大渕: あくまでも社会人としての経験を積んで、その延長線上に教員ということを考えていた。だから実業団にいくつもりもプロになるつもりもなかったんです。
IBMでは5年間野球部員として過ごし、残りの2年間は世界に目を向けていて、アメリカやキューバの野球を見に行ったりしていた。学生時代のロスアンゼルス遠征でアイク生原(生原昭宏)氏にお会いして、そういった生き方に憧れてもいたし、野茂が活躍しはじめた頃でもあったし。
高畑: あぁー、なるほど。
大渕: で、向こうに留学することも考えたんだけれど30歳もむかえて現実的な選択としては教員になることかな、と。
-そもそも教員を目指そうとした理由は?
大渕: 典型的なパターンだけど、高校時代の恩師に憧れて。早稲田大学に入ったのも恩師が早稲田だったから。
-恩師はどんな方だったんですか?
大渕: 兄貴的な存在で、誠実な方だった。一緒に夢を追いかけるという存在で、暴力的なことも一切なかった。
部歌までつくってしまう情熱的な監督。ロマンに満ちて、品のあるひとだった。そんな人の影響を受けて早稲田に行きたいと。
ベスト9に選ばれた時も生徒を連れて神宮へ応援に来てくれた。残念なことに今の僕ぐらいの年齢で皆に惜しまれて亡くなりました。
スカウティング
-現在は株式会社北海道日本ハムファイターズに所属しているわけですけど、もちろん東京から札幌まで毎日通勤しているわけでもないでしょうし、スカウトの方って一体どんな風に日々を過ごしているものなんでしょう?
大渕: 地域ごとに担当が割り当てられているので「全国飛び回る」という印象とはだいぶ違います。基本的には月ごとに自分で自分のスケジュールを決めます。観に行く試合の日程によるわけですが、トーナメント方式であれば、勝ち負けで日程がかわるし、雨が降れば延期になる。可変的な動きが特徴ですね。
-日々のスケジュールの立て方は?
まずは「誰」に目をつけるかですね。
「質の高い情報」を得て、「的確なタイミング」で現場に行き、「素早く判断」する。この繰り返しです。もちろん、まだまだ出来てませんけど。
いま、上司から言われているのは、色々なところに種を蒔くのではなく、「これは」と思ったら、ひとつのところに集中し続け、早く見極めることです。
いくらでも情報はあるのだけれど、結局のところ僕がやっているのは「切る作業」なんですよね。
-企業が見込み客を絞り込んでゆく作業に近いところがあるのでは?
大渕: 僕はIBMでは最後は営業推進という部署にいたんですけど、ポテンシャルのあるマーケットを見つける作業とまさしく同じ。見込みのないマーケットをいくらまわっても無駄骨。
-この選手がいい、という判断はどんなところで?
大渕: 相手が人間なので曖昧。
僕達スカウトは「この選手が活躍する可能性が高い」としか言えない。ただし、その時に根拠はこれとこれであり、リスクはこれとこれであると上へ伝えます。そしてプラスアルファの部分で、感覚的なものがあります。その場合はその感覚を伝えます。人間が人間を見るので、そういった人間らしさ的な判断も大切だと思っています。
-その感覚というのは、どんな場面で判断するのでしょう?
大渕: 基本的には試合。やっぱり舞台に上がって演技をしてもらわないとわからない。稽古場ではわからない。
舞台で「面白い役者だな」と思ったら、次のステップとして稽古場でその人間性をみる。その逆は少ない。
まず野球選手の資質があるか、そして、プロとしての人間的な資質があるか。
-人間性はどんなところを?
大渕: 着こなしや、グローブの手入れ、ベンチに居る時の様子などさまざま。
-礼儀も?
大渕: 礼儀は気にしてないんですよ。野球界は上辺だけの意味のない、というか、頭を使わない形式的なものが多いですから。
感性、感度、そして意思
高畑: なにかに感謝できる人はなんにでも感謝できる。そういったところじゃないかな。
大渕: そう。話はとぶけど、感性なんだと思う。
高くて、なおかつ感度のいいアンテナを立てていることが大事。なにかっていうと、高校生は2年半、大学生は4年。たった2年半なんて努力しなくても素材だけでトップにいれるヤツはいれるんですよ。でもプロは違う。僕はプロに入ったからには10年は働いて欲しいと思っている。まずは入団してすぐの壁がある、さらには怪我もあるし、スランプもある。私生活での苦悩もある。そういうのを乗り越えられるものがあるかっていうところを見たい。そこが見抜かなきゃいけないところ。そういう意味で感度がよくて高いアンテナを立てている子は学ぶ機会をもっているし、自分でクリエイトする力がある。
高畑: 一般の企業でも人を見る目がある人は選手を見ていてもわかると思う。
大渕: そうそう。目が違うとか、話をしていて、感度が違うとか。
多角的に見てどういう高さで、どういう感度のアンテナを持っているか。そういう見えないものを自分の中でどういう風に立体的にできるか、それが僕の仕事だと思っている。
素材はいいけど、アンテナを磨くということをしてこなかったという選手は、プロの世界に出してから伸びてこない、というのが僕なりの現在の考え。
高畑: そうだね。
大渕: 感度の低い選手はいくら教えてもなかなか成長してこない。いまでも会社員時代の上司に会って話すんだけれど、優秀な社員はなんで優秀なのかを見つけるマニュアルをつくろうとしても、なかなかみつからないって。そういったものはなかなか具現化できない。
高畑: じゃ、自分を選手として獲りたいと思う?
大渕: 自分はいらない。
もうひとつ付け加えたいことがあったんだけど、まず強い意志があることが大事。素晴らしい性能のスポーツカーがあったとしても、「絶対にこのレースは勝ちたい」、と思うレーサーが運転席に居なければダメ。僕にはそれがなかった。絶対に他人を押しのけてまで、というのがなかった。
高畑: それがあったらきっと楽だよ。自分が欲しいと思っている奴と感性が合う訳だから、パッと会っただけで「こいついけるよな」ってわかると思う。
大渕: そうだね。最後はそういう感性が決定打になるんだと思っている。だからそういう感度を感じられるよう、僕の中の感度も大切にしたい。
高畑: 面白いね。
大渕: そう言いつつも統計の力も知らないわけでない僕としては、成績から見える法則みたいなものがあると思っている。四死球や三振、エラーなどから成長性が見えてきたり。多分、ベテランスカウトになればなるほど、明文化しなくても体で感じているんじゃないかな。別の切り口で人間行動学みたいなものを知ればまたわかることがあるのかなぁと思ったり。でも、そうするとマニュアル的になっちゃう。
高畑: やっぱりマニュアルじゃないからね。
大渕:「感性」と「結果から見える法則」の両方を駆使してゆきたいね。
-そもそもスカウトに誘われたキッカケは?
大渕: 先に話したとおり、海外に目を向けていて、中でもキューバに興味があった。そこでキューバの野球について本を書いた鉄矢さんという方に手紙を書いたところ、当時デトロイトタイガーズのフロントで仕事をしていた方を紹介していただいた。その後、ほとんど飛び込みのような状態で本人にお会いしてお互いの考えを話し合い意気投合し、教員時代もメールのやりとりなどを続けていた。
そういった中で、日本ハムで球団組織を作り直す改革の一環としてスカウティング部門に迎えたいというオファーあったのが一昨年のこと。
僕としては高校野球の監督として続けていくことも幸せだったけれど、こういった機会は滅多にないことだと思ったし、一般的に逆はないと思った。つまり、高校野球の監督を続けて五十歳近くなってからプロ野球界に入ることはあり得ないだろうけど、その逆は可能だろうなと。
経験、環境
-まだ、スカウトを始めて一年少ししか経っていない訳ですが・・・。
大渕: 自分が選んだ人間がどうなるかっていう「結果」がまったく見えていないわけです。それに、自分が「いいな」と思った選手が他の球団にも行っている訳で、その選手達がどうなるかっていうのも僕自身の勉強。それを見極めるのに、もう何年かかかりますよね。それによって「あれは違った」もしくは「やっぱり良かったんだ」っていうのを更に積み重ねることによって、こういうことが大事なんだって気づくのにあと何年かかるんだろう・・・。それぐらい経験則がものを言う世界。
-「自分だったらこういう風に選手を教えたい」っていうのはありますか?
大渕: それはあります。自分でもかなり勉強してきましたから。しかし、もちろん現場では言えませんけど。
昨年は指導者の目で見てましたけど、今年はリラックスして客観的に見てます。
選手への指導者の影響力っていうのは滅茶苦茶強い。僕等が親から強い影響を受けているのと同様。
仮に同じ120メートル打てる選手が二人いたとして、あれこれ言われっぱなしのチームで打てる選手と、自分で考えて打てる選手とでは僕から見たら全く違う訳です。指導者、親、学校の環境というのは非常に重要。
それから、スカウトについてよく「恋人に会いに行く」と例えられるけど、そういう気持ちはよくわかる。初対面でほぼ決まる。合コンで「フィーリングが合うなぁ」みたいな。初対面で惚れられるかどうか。あとは追っかけていく。基本的にそういう気持ち。
-就職の面接にも似てるような。
大渕: いざ、これから試合が始まるという時に自分の頭を空白にし、感度を高めて雑念を取り払う。そんなことをしていると、自分を磨くためには感性を常に磨かなければいけないなって思う。本ももっと読まなきゃいけないし、音楽にしても本物の音楽を聴くとか。
-ところで、IBMって独特のカルチャーがあるように思うのですが、いかがでしたか?
大渕: 組織としては素晴らしいところだったと思う。
あと、もともとコンピュータとか数字なんか好きじゃなかったけど、やらざるを得ない環境にいて嫌なことを先に身に付けられたから楽になった。今では数字をまとめたり、パワーポイントつくったりするのも好き。また、最近はネット上に色んな情報が出てるから統計をまとめたりできて面白い。だから、直感と同時にデータからも見てる。
営業推進部にいた頃はデータやグラフをつくることはしょっちゅうやらされたけど楽しかった。数字のマジックは面白い。
例えばある選手の「印象」と「数字」が違う場合がある。そんな場合はまさに実験と検証。仮説を立てたうえでデータを拾い上げ、今の上司に報告することもある。こんなことやってるの俺だけだろうけど。
抽象的なものでなく、上司が判断しやすい材料を準備する。
「ランナーを背負った時の被打率がすくない」つまり、彼は打たれても失点しないというゲームづくりに長けている投手、みたいなデータ。そこまで数字を詰めないと単に「いい選手」というありきたりの言葉で終わっちゃう。人間なんだから十人十色。そうでなくて、こういう利点を持っているというのを見極めて、それが結局チームの需要と供給に合うか合わないかをもっと具体的にみていく。データは嘘をつかないところがある。
高畑: 俺がスカウトだとしたら、コイツは自分の成功の方程式を持っているどうかっていうのを見ると思う。成功の方程式をつかんでる奴はどの世界に行ってもやれちゃう。
大渕: 言ってること、同じかどうかわからないけど、僕は選手を見るとき、コピーする人間か、クリエイトする人間かのどっちかを見る。クリエイト出来ないとだめ。
仮にA君がクリエイトしたモノっていうのは、B君にコピーできるかっていうとだめで、B君はB君で自分に合ったもの自分でクリエイトできなきゃだめ。それが自分の持っている方程式かなぁ、って僕には思える。
高畑: 色んな方程式があるけど元はひとつじゃないかなぁ、と。
大渕: 僕はよくコンピュータに例えるけど、やっぱり「ハード」と「ソフト」と「OS」だと思う。
ハードっていうのは技術、体力。でもそのハードが野球選手としてのパフォーマンスかというとそれは違う。コンピュータ全体がグルグルと高速で動いてはじめて野球選手としてのパフォーマンスがあがる訳であって、ハードがどんなに良くたって、当然ソフトも動かなきゃいけない。「プロ野球で活躍する選手を打ち崩す」というソフトを動かすにはOSの能力が非常に重要。ハードのところは見えるんだけど、OSって見えない。そのOSを見極めるのがさっき言った感性の部分。
やっぱり僕等の仕事は見えないところを見極めるところで、最終的には理屈じゃなくって感性じゃないかなと。
選手も経営者
高畑: 見えないものを見極めるのも仕事だし、見えないものを育てるのも仕事だからね。
プロ野球選手も自分で自分を経営していくぐらいのつもりでないと。その能力がないとただ単にチームの一員で終わっちゃうよね。
大渕:僕も今年獲った選手を「社長」って呼んでるの。
「○○社長!いま儲かってますか?それとも赤字ですか?」って。赤字だとしたら「どこか赤字なんですか?」、「どこの部署にテコ入れをしてその赤字を解消するんですか?」と。つまり投資家の目線で。
そんな風に一年経つ毎に自分の中で経営会議をして欲しいんだけど。そういう風に“育てる”しかない、気づかせるしかない。二軍に居てそういったことに気付かないようではそれこそ赤字の垂れ流しの会社。なんて考え方をしてもいいかなって。
高畑: 結局、人間が人間を経営するでしょ。
大渕:客観視をする自分の目がなきゃいけない。コーチに「次は何やったらいいんですか?」ではいけない。うちの球団は、そういう風に受身にさせないように、練習は自主性重視。なにかっていうと、メニュー、つまり「引き出し」は伝えるけれど、「やるのはあなた方ですよ」って。プロ(個人事業主)なんだから当たり前だけど、そこから教育してゆく必要が年々増しているように感じる。
高畑: じつはフィジカル的練習ほど楽なものはないんだよね。考えずにただ体動かしてればいいだけだから。一番きついのは「心の練習」とか「頭の練習」。
大渕:そこに意識がいって欲しい。言ってもなかなか理解できない選手はプロアマ問わず少なくない。
高畑: でも、「体の練習が好き」っていうような人間はじつはたくさんいて、一般企業でいうと「使い勝手のいい社員」だったりする。「お前、これやっとけ!」って言えばやっといてくれるんだから。
大渕:最近選手をみていて感じるんだけど、十年前だったら練習好きな選手には価値を感じたかもしれないけど、今は逆に練習好きな選手は「大丈夫かな?」って思ってる。考える力がないから「とりあえず練習してればいいや」みたいな。ゴールがない。計画がないからゴールがない。
高畑: まったくそれはその通り。こんど受験生を相手に話をするんだけど、自分の体験を話そうと思って。
中学受験の時はただガーッと勉強したんだけど、大学受験の時は違う方法で勉強したい、て思った。そこで考えたんだけど、まず、教科によって色んな分類する訳よ。本当に理解しなければいけない内容なのか、理解しておいた方がいい内容なのか、そして理解しなくてもいい内容。あとは、論理的に考えた方がいい内容なのか、インスピレーション、つまり感覚で理解した方がいい内容なのか。これらを組み合わせて、それに応じた勉強方法をやっていくわけ。
大渕:そこまで考えなかったなぁ。
高畑: 練習ひとつとっても、同じ時間のなかで、これは必ずやっておかなきゃいけない練習。やっておいた方がいいよねっていう練習。手を抜いてもいい練習。そういうのがあると思う。選手それぞれ。
また、それを理解するのに、論理的にしっかり理解した方がいいのか。あとは理屈はいらないけれど感覚でつかめばいいだけなのか。
それを組み合わせていくと同じ時間のなかでの練習でも「練習方法」が違ってくる。
大渕:質だね。
高畑: そういうことが出来る選手が欲しいよね。
大渕:それは伸びるために必要な条件だね。だけどプロの世界になればなるほど、身体的な条件が絶対条件となってくるのも事実。絶対的な力の差が歴然としてしまう姿は見ていて惨め。だからその両方を最低限のレベルで揃えてるってことを確認したい。ハードは80点でも、OSは素晴らしい、これだったら色んなソフトを渡しても使いこなしてくれる。どんどん回路が動いてどんどん良くなるマシン。
高畑: そういう人間は怪我をして選手としては終ってしまっても、コーチとして使える。首脳陣として活躍できる。コーチもそういう資質をもっていることが非常に重要だね。
大渕に聞いてみたいんだけど、仮に今はダメなんだけど、股関節の可動域が広がったらパフォーマンスがぐっとあがる、いいものを持っているんだけど今は固いから結果がついてきていない選手。そういうところを開発してやったらぐっと伸びる選手を見極められるかどうかなんだけど。どうだろう?
大渕:それはいい、わるいをパッと印象だけで決めるんじゃなくて、もっともっと分解していって「ここが欠点でここが長所なんです」と。具体的に正しく分析すること。欠点は比較的見つけやすい。問題は入団後その欠点を補える“あて”があるかどうか。それを僕が見なきゃいけない。
高畑: そうだね。
大渕:完璧な選手なんてどの球団も欲しいわけだし。弱点部分の改善の可能性を見込めるかどうか。
高畑: そう。股関節を柔らかくしてやれるトレーナーがいなければ意味がない。彼はいつまでもそのままだから。ひょっとしたらスカウトの仕事っていうのはトレーナーまでも巻き込んで・・・。
大渕:大事なときはトレーナー連れて行ってもいいかな(笑)、って。
コーディネート役としてのスカウト
高畑: 選手にプラスとマイナスがあってそのマイナスを(プラスへと)開発してやれる人間がその組織にいるかどうかだよね。
大渕:(スカウトは)そこの総合的なコーディネート役だと思うんだよね。
実際、高卒の場合7割は一軍で活躍できずに引退するんだけれども、だからこそ、細かいところまで将来性を極めて入団させて次に渡す責任があると思う。「化けたら面白い」だけでは仕事とはいえない気がする。長期的に先まで見越すってことが大事。それが球団全体で物事を判断しなきゃいけないっていうことだと思う。
高畑: そうだね。さっきの経営者の話に戻るけど、よく選手に言うのが「俺が教えるんじゃないよ、お前が俺を使うんだよ」って。「その感覚を忘れるなよ」って。
大渕:プロアマ問わず、口を開けて待ってる選手も多いから。
高畑: その意識は持って欲しいよね。
太くてしなりのある木
大渕:視線も自分に向けて欲しい。「あいつはどんな練習をしているんだろう?」じゃなくて、「オレ、いまこうやってみたら、こういう感覚だったな。じゃ、こう変えてみたらどうなるんだろう」って自分の中で寝る間も惜しんでずっと考えて、夜中に練習し始めるようなのが本当の練習。
高畑: そうだよね。
いい選手っていうのは「頭が固くて頭が柔らかい」。自分の芯というものをしっかり育てることが出来ていながら、柔軟性もある。
大渕:耳が片方だけ空いてるような。
高畑: 太くてしなりのある木のイメージ。
芯が太くて、なおかつ、しなるから折れない。
大渕:なるほどね!
ところで、先日面白いことがあった。
比較的感性が似ているスカウトとある選手に注目していた。その選手について彼は「いい」と思っていたけど俺は「あんまりよくない」と思ってた。そこでまずスタート地点が違った。そんな二人の目の前でその選手が二塁打を打った。彼は「ほら、ああいう場面で打てる」と言う。だけど、俺は「あれだけ捉えたんだから、ホームランにならなきゃおかしい」っていう判断をしているわけ。
スタート地点が違うだけでこれだけ人ってモノの見方が違う。
高畑: 面白いよね。
大渕:だけど、判断する立場では「多角的」っていう意味でそういう違いは、すごくいいこと。
誰々の評価能力が低いとか、間違っているっていうことが重要なのではなくて、その選手を語る時に複数の人間の感性によって語られることによって“実像”に近いものが見えてくる可能性が高まる。こういう多角的なことをするとリスクが排除される。
高畑: ホントそう思うよ。俺も自分がメンタルトレーニングをしている選手達に「本を読め」って言うんだけど、「俺の本を読め」って言うこともあるけど同時に「俺の本を読んだ分だけ他の人の本も読め」っていう。自分の立場に置き換えたら、ある一つのことだけ盲目的に信じて突き進んでいくって怖いことだと思うんだよね。
大渕:なるほどね。
高畑: 俺のものだけが幹になってしまうと、しなりがなくなっちゃって怖い。
- 昨今の問題について -
高畑: ところで最近の「裏金問題」についてどう思っている?
俺も先日のブログで「そんなスカウトばかりじゃない、みんな地味に大変な仕事してる」って書いたところだったんだけど。
大渕:いろんな意味で残念。日本ハムはあの問題の後、「客観的に見てグレーと思われることは一切避ける」方針を確認してる。本来のスカウティング業、あるいはスカウティングスキルを上げることに邁進して欲しい、ってことだね。あたりまえだけど。
常々、僕はスポーツが本当の文化として認められるにはどうしたらよいのか、と考えてきた。それは国民の要求に応じられているかどうかなんじゃないかな、と思う。高校野球に求められているものは「必死さ」「友情」、プロ野球は「日ごろ観られない技術やパワー」「楽しさ」。
しかし、大前提が崩れてはいつまでたっても文化にはなりえない。それは「公正さ」。スポーツにはこれがあることが前提になっているはず。同じような不正として社会に起きている談合や生保の不払いとはそこが違うと思っている。スポーツには目に見えて「公正さ」が必要とされる。
そういう意味で、プロ野球界に関わる人たちの志の高さや国民に求められていることの理解度なんかが重要だと思う。遠い昔からプロ野球はみんなのものなのだから。
-対談に登場していただいたからと言ってもちあげるつもりはないが、日本ハムは球団だけでなく、グループ全社あげて法令順守に厳しい姿勢をとっていることで知られている。大渕氏も述べているとおり、球団スカウト陣もグレーゾーンと受け取られることは極力避けようという方針をとり、ともすれば私生活をも犠牲にしかねないほどの徹底ぶりである。
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