Jリーグを飛び越してプレミアリーグの世界へ
高畑: (名刺交換後に)印象に残る名刺ですねぇ!
島田: ええ。私自身、フリーランスライターの方から頂いた名刺を後で拝見して半分以上どなたのものか思い出せなかったんですよ。反対のことを考えると私自分も忘れられているだろうし、フリーとしてやっていくにはとにかく覚えて頂くことが大事なので・・だったらこんな風にと思ったんです。
高畑: これだったら大丈夫ですよ!
-イギリスのサッカーに興味を持ち始めたのはいつから?
島田: イギリスのプレミアリーグが'92-'93シーズンから開幕したんですが、その頃からです。
-サッカー自体には?
島田: 小学生の頃からですね。まだJリーグもないし高校サッカーを観ていました。埼玉出身なので強い高校も多かったんです。私の場合は興味の対象が高校サッカーからJリーグが開幕する前にプレミアリーグへ移っていました。今でこそマンチェスター・ユナイテッドなど日本でも良く知られるようになりましたが、当時は無名でこそないものの衛星放送ですら放映してなかったんです。初めてマンチェスターに試合を観にいった時、クラブショップの方が「わざわざ日本から来てくれたんだから」と言ってテディベアをくれたぐらいでした。
高畑: へぇー。すごい!
島田: 今じゃ考えられないことですね。
-本を拝読しても、本当に色んな方々とお会いになっていますよね。
島田: そうですね。もし、今イギリスに行って同じ方々にコンタクトできるかと言ったら、それは厳しいと思うんですよ。彼らを取り巻く環境もこの10年で本当に変わってしまったと思いますし、以前は公開していた練習も今では非公開になってしまいました。タイミングも良かったんだと思います。
高畑: なるほど。
イギリスサッカー界での心のケア
-高畑の本をお読みになったキッカケは?
島田: もともと本を読むのは好きだし、ライターをしているので本屋へは頻繁に足を運び、様々な本も読むようにしています。イギリスだと「メンタルトレーナー」という形ではありませんが、「心のケア」をする人がどのチームにもいるんです。牧師さんだったり、心理カウンセラーだったり。そんな話を自分の本でも紹介しているぐらいなので、スポーツ選手に「メンタル面での強化」は重要だと思っているし、高畑さんのご本にはすぐに興味を持ちました。
高畑: 牧師さんなんて僕よりいいかも(笑)
島田: そういった方々が単なる試合に向けてのモチベーターではなく、必要であれば私生活での悩みもケアしているんです。クラブのスタッフとしてちゃんと名前も載っています。
マチュピチュでもサッカー観戦?!
-ところで、なんでまたプレミアリーグの次が「13万円でマチュピチュ」という旅の本に?
島田: 好きなものが「サッカー」と「旅」で、旅の本も以前から書いてみたかったんです。マチュピチュは地球の裏側にあって、気軽に行くことができないからか、憧れている方がよけに多い気がします。私も以前は「遠い」「高い」と思っていたのですが、色々と方法を考えたら13万円でお釣りが来ちゃいました。その方法をひとりでも多くの方に知って頂けたらなと本を書きました。
高畑: なるほど。
島田: でも旅先でも趣味に走ってしまうので、旅行に行く時は一人じゃないとダメかも知れません。先日も仕事の合間に京都観光をしたんですが、ドラマ「スクール☆ウォーズ」のモデルとなった伏見工業高校を見に行っちゃいました(笑)。
マチュピチュに行った時にも標高3千4百メートルのクスコという街を拠点にするんですけど、シンシアノというサッカーのプロチームがあるんですよ。そんな標高の高いところにあるなんてやっぱり気になるじゃないですか。だから世界遺産を見に行ったんだか、サッカーを観に行ったんだかわからなくなって(笑)。だから一人旅じゃなきゃ私はダメだなって。
高畑: すごい!
島田: じつはこの本にはチベットやカンボジアにも行った話が載っているんです。チベットに行った際には周りはみんな中国人なんですが、彼らとなかなかコミュニケーションがとれなくてなんとか漢字で筆談なんかをしていたんです。そんな時、中国では英雄といわれている孫継海というサッカーの代表選手の写真がたまたま私のデジタルカメラの中に入っていたんですよ。それを見せたらもうコミュニケーションが弾んじゃって(笑)
高畑: へぇ~ん。
島田: そうなんですよ、だから、こんど南半球のフィジーやトンガに行く時は同じ手段でラグビー選手をネタにコミュニケーションが取れるなって!
やっぱり、みんなに「なんで『サッカー』の次に『旅』の本?」って思われたんですけど、実はけっこうサッカーのネタが入ってるんですよ。そんな訳で実はサッカーファンの読者にも喜んでいただいてます。
-学校を卒業されて就職せずにすぐイギリスへ?
島田: 本当は高校を卒業してすぐに行きたかったんですけど、親に反対されて一応短大を卒業してから行きました。
高畑: なんで、野球でなくてサッカーだったんですか?
島田: 特に理由は思い浮かびませんが、中学生の時には既にプレミアリーグにはまっていて“イギリス贔屓”になっちゃんたんですよ。その後はあまりにイギリスに固執するあまり、“アメリカンスポーツは嫌い”、と思ってしまったこともあったぐらい、なんでもかんでもイギリス生まれのモノが良く思えちゃいました。
高畑: 日本ではサッカーファンと野球ファンに大きく分かれるんですよね。
7月にはラグビー本を発売!!
島田: ラグビーにもハマってしまって、ラグビーの魅力を伝えられるような本を出すことになりました。私も今まではラグビーには興味がなかったんですが、好きになってしまいました。もともとはサッカーの兄弟みたいなスポーツだし、私もはまってしまったぐらいなので、今はラグビーに興味がないというサッカーファンにも読んで欲しいな、魅力を知って欲しいなという意味も込めています。そうすると今までは興味がなかった野球も実際に観に行かなきゃいけないなと思うし、ようするに、スポーツ全体を盛り上げたくなりました。
高畑: ええ、いいですよね。
-ラグビーに最初に出会ったのはイギリス?
島田: そうですね。ラグビーもイギリス生まれのスポーツですし、テレビでやっています。スポーツ新聞でなく、普通の新聞でも大きく記事が取り扱われているんですよ。前回のW杯でも優勝していますし。そうすると特に興味がなくても情報が入ってくるし、「ラグビーを観に行ってもいいかな」って気にもなるんです。
6年位前、元日本代表の岩渕健輔選手がイングランドのサラセンズに在籍されていて時に仕事でお会いするというご縁もありました。はじめの頃はルールが難しくて。“ルールを理解しよう”と思って観てしまったのでなかなか楽しめなかったんですね。でも、最近になって“ルールはいいや”と開き直ってとりあえず足を運んでみたら・・・ハマっちゃいましたね(笑)。
高畑: ラグビーは面白いですよね。この対談の第1回目にも藤掛氏に登場していただいてます。
島田: 本を出版することが決まり、日本代表の合宿を観に行ったり、色々な方に話を伺っています。
-そういえば、リフティングされてる写真がブログに載ってましたよね。
島田: そうなんですよ、何でも体験!と思い、お願いしたのですがものすごい高さでした(笑)。もともと何人かのラグビー選手とは面識がありましたが、皆さんとにかく人がいいんですよ。それも私がラグビーという競技を応援したいと思う気持ちにつながっています。
「演出されていない最高のエンターテイメント」
高畑: ところでスポーツを通じて、何を伝えていきたいですか?
島田: そうですね、スポーツって観ているだけで感動できるし、“演出されていない、最高のエンターテイメント”だと思います。そのスポーツにまつわる話や、そのスポーツに興味を持つきっかけとなる話などを紹介して行けたらと思います。
高畑: 僕思うんですけど、サッカーに限らないんですけど、勉強できなくてもいいから、24時間、サッカーならサッカー、野球なら野球のことを考えていて欲しいんです。やっぱり基本的には自分が好きなことをやっている訳だから、好きなら夢中になって考えろ、夢中になって体を動かせよ、って考えるんだけど・・・。
-これから「プレミアリーグを観よう」という方々に是非、見どころをお願いします。
島田: じつは今日もこれからチャンピオンズ・リーグの決勝をスポーツカフェまで観に行きます。このチャンピオンズ・リーグのベスト4にイングランドのチームが3チームも残るぐらい今、イングランドには実力、人気ともに世界一のものがあります。
イングランドの良さのひとつにピッチと観客席の近さがあると思います。少し大げさに言えば手を伸ばせば触れるぐらいの近さで、選手達の言っていることも聞こえるし、スタジアムと一体化できるあの「近さ」を是非体験していただきたいです。
今、どこのチームもすぐにチケットが売り切れてしまうので、日本から手配すると何万円もかかってしまうんですが、正直なところその価値はあると思います。また、チャンピオンシップの下に1部、2部から12部まで続いていますが、下部リーグにも昔ながらのイングランドの良さがあるのでオススメです。上部のリーグでは廃止されてしまったテラス席(立ち見席)もまだ残っているのでそれも是非体験して欲しいですね。
上から数えて7部の試合でも100人の観客が入りますし、どこで買うのかわからないんですが(笑)みんなちゃんとレプリカのユニフォームで応援しています。とにかくサッカーの根付き方は中途半端じゃないです。
-12部ですかぁ~。
島田: 7部でもスター選手だと月に20万円ぐらい貰えるそうです。でも日中は仕事している訳ですよ。
ロンドンの郊外だけでもプレミア・リーグのチームがいくつもあって、その強豪チームと強豪チームの間に挟まれたところで下部リーグの試合があってもお客がちゃんと集まっている。ほんの十分歩けばプレミア・リーグの試合が観られるのになんでそこを応援するんだろう?って。それがすごく楽しくってしょうがないんです。地元密着って言いますけど、それこそ県などの単位じゃなくて、なんとか“町”の単位なんですよね!
高畑: それはすごいですね。
誉め上手のイギリス人
島田: そんな下部リーグでも心理カウンセラーがついてるんですよ。それから、イギリスでコーチングの資格をとっている方に話を聞いたのですが、イギリス人の指導者はとにかく“誉める”んだそうです。選手達も小さい頃から誉められているから「オレって出来るかも」っていう気持ちになれるし、モチベーションのもっていき方が上手いそうです。その一方でポルトガルやイタリアの監督は指示を細かく、細かく出す。だからイギリス人の監督でアシスタントに外国人を雇ったりとか(笑)。
イギリスでは監督がメンタルトレーナーの役割を果たせているのかなと感じました。
高畑: そういうのが根付いたらすごいよね。僕もそっちの方が理想だと思うね。
島田: 本にも書いたんですが、じつはイギリスでバイオリンを始めたんです。でも上達しないし変な音しか出ないんですよ(笑)。もう、レッスン行くのが申し訳ないぐらい。でも先生は必ず誉めてくれるんですよ。「ここが良くなりましたね」とか。日本だったら「もっと練習して来い」とか言われそうじゃないですか。それが必ずどこかいいところを見つけてくれるんですよ。嬉しくなりましたよ。
高畑: いいですね!
島田: でもそれがイギリスの教育方法で、学校でも10科目あって例えば体育の1科目だけできるとしたら、親はそれだけを見るんですよ。もし、日本だったら1科目できないものがあるだけでも「この子はこの科目ができなくて」って言うんでしょうけど。
高畑: そうだね。
島田: それはサッカーの指導方法でもそうで、日本では個々の技術それぞれが平均点以上でなくてはダメという見方をする。ところがイギリスの場合には劣っているところがあっても一つでも秀でたところがあればそれを伸ばしてあげる。日本のやり方は小さい時にはそれでもいいと思うんです。でもイギリスのやり方だとたとえ平均点はが低くても、各クラブや代表となったときには、各地域やグループのずば抜けた選手が集結するわけだから、当然、日本よりも強いチームができてしまうわけです。
日本のお母さんが「うちの子供はこれこれが出来なくて」とか言うのがすごく嫌で、将来絶対にそういう風になりたくないと思ってるんですよ。
高畑: いいお母さんになりますよ!
「努力」ではない
島田: サッカーのベッカムもラグビーのジョニー・ウィルキンソンも誰よりも練習量が多いと言われています。天才って言われる人ほど努力しているんですね。
高畑: 僕の感覚からするとそれは努力ではないんですよね。好きだから「あれ、頑張っちゃったよ」みたいな。
島田: いわれてみれば、神戸製鋼の練習を頻繁に練習を見学されている方から「後藤翔太選手はいつも最後まで練習をしている」と聞きましたが、後藤選手本人も「『努力』って言葉は嫌い」とおっしゃられていました。
高畑: (本の)原稿だってそうですよね。嫌々書いてはいないですよね。
島田: 楽しくてしょうがないですよ。
高畑: 勝手に書いてますよね。そんな感覚じゃないかなぁ。ワクワク感。
島田: 一年前の自分はまさかラグビーの本を出すなんて考えてなかったんですよね。そしたら、一年後もどうなっているか全くわからないじゃないですか。一体自分は何をしているんだろうとワクワクです!
高畑: 僕も不安定がすごく大好き!
一流選手ほど「普通」
高畑: イングランドで観てきて印象に残った選手や、エピソードをきかせていただけると嬉しいんですが。
島田: ロビー・キーン、フレディ・リュングベリなど、それこそ世界的に有名な選手達をインタビューさせていただいたんですが、基本的に皆さん“おおらか”なんです。こっちは構えてしまうんですが、選手はいたって謙虚。一流と言われる選手ほど普通なのかなってことを感じますね。
イングランドの代表として78試合に出場しているスチュアート・ピアスという選手。キャプテンで国民的ヒーローであると同時に私自身のヒーローでもあります。初めてインタビューさせていただいた時は本当に緊張したんですが、私が日本人であることを気遣って、Jリーグに誘われたことがあるといった他では知られていない話をしてくださりました。慕われている選手というのはピッチだけでなく、それ以外の部分を持っているんだなっていうのをすごく感じますね。
ウェイン・ルーニーのことを、「教育を受けていないのに、何十億も貰っているのはおかしい」っていう世論もあるんですけど、私はたとえそうだとしても、それだけの価値のあるプレーをみせてくれる選手だと思います。それになかなか表には出てこないですけどチャリティー活動もよくやっているみたいです。ドログバという選手も1回ゴールをするごとに寄付をする、なんてこともしていますし、自分達の使わなくなったウェアをアフリカの子供達に送ったり、ということをしているチームもあります
高畑: 僕は一流選手ほど自分の中にコーチを持っているものだと。自分の中のコーチと自分が対話するという感じじゃないかなぁ。
保険適用で“恐怖症”を治す!?
島田: イギリスではカウンセリングなどが非常に盛んですね。日本だと、カウンセリングには嫌なイメージがあるじゃないですか。でも、むこうだと落ち込んだ時とか話を聞いてくれる専門家がいて、これは大事な存在だと思います。
それからびっくりするようなものにまで保険が利きます。催眠療法にまで・・。知人が催眠療法で“ヘビ嫌い”を治したんですよ。私が高い所とクモが苦手だと言うと、何人ものイギリス人の友人から当たり前のように催眠療法を勧められて驚きました。
-イギリスでは部屋を借りて生活していらっしゃるんですよね?
島田: そうです。で、日本に帰ってくるときは埼玉の実家です。
高畑: いいよね。そういう生活も憧れるなぁ。
島田: 今でこそ日本でも、仕事を通じてお会いした面白い人達に囲まれていて、浮いてると感じることはないんですが、気が強いとか、イギリスでは“向上心”と捉えられるはずのことが日本では“欲深い”と表現されることが残念かなとは思います。
高畑: 僕も浮いてるから、ひとのこと言えないんですよ(笑)
島田: 昔は気にして萎縮してしまっていた時期もありましたが、今は「いいや!」と(笑)
高畑: はじけちゃったんだね。
島田: はじけちゃいました!
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