自分で自分を追い込んでいく。それが原動力。
高畑: 藤田さんは福井出身じゃないですか。僕は広島出身なんですが、結局地方から東京に大学で出てきて、地方は相変わらず保守的ですよね。そういうなかで、東京に何もない状態でぽんと出てきて、そこから今に至るまでの経緯に興味があるんです。例えば藤田さんがもともと東京の大富豪の息子で、もう人脈もお金も何もかもがあって成功されたのであれば、面白くないのですが、僕はそこがすごく面白いなと思うんです。人の可能性というか。
藤田: 僕の友人には元々家がお金持ちだった、という方が多いですけど、そういう人はそういう人で、意外とコンプレックスを持っていたりしますよ。自分で生み出したものではないので。それに、もともと持っていたものを引き継ぐとなると、保守的になりがちですよね。僕は代々背負っているものでは無いので、いつワンルームアパートに戻ってもいいと思っていますし。とはいえ、株主や社員、取引先も多くいるので会社は長く存続させなければと思っていますけどね。
高畑: そこに至るまでの流れというか、特に経歴とかいうよりも、ビジネス始めて、当初どんな心境で始められて、途中、いろいろな危機もあっただろうし、そういうのをどういう気持ちで乗り越えていったのかなと。
藤田: 会社を設立したのは24歳でしたから、正直、わけがわかってなかったですね。ただ、勝負事が好きで将棋やマージャンもよくやっていたので、リスクに対してのリターンの見合いをいつも自分の中で計算するようなところがありました。だから、仮に24歳で起業して、うまくいったら本当に素晴らしいリターンが得られるけれども、たとえ失敗したとしても、20代で社長として企業経営をしたという経験が残るので、リターンの大きさに対してのリスクは実は限定的なのではないか、と思っていました。
高畑: 常に選択もしなければいけないだろうし、どういう価値基準というか、けっこう決断は大変ではないですか。どういうところを基準にして自分のなかで。
藤田: 基本的に決断自体は早いですね。食事で何を食べようか、といったことは遅いのですが、仕事に関する決断は早いです。決断して、それを公言することで自分を追い込むようなところはありますね。実は元々、そんなにしっかりしたタイプではないんです。大学も留年してしまったぐらいですので・・・。ですから、自分で自分を追い込むことで、実現させているんです。例えば、会社設立時に2年で上場する、と宣言して結果本当に2年後に上場したり。それを口にした時はどれくらいで上場できるのか正直理解してはいなかったのですが、口に出すことで自分や社員を鼓舞していったんですね。
高畑: 先に既成事実を口にしてしまって。
藤田: 方法は言うだけではないですけれども、自分を追い込むということでは共通していますね。
高畑: それは、昔からそういう感じですか。子どものころから。
藤田: どこかで気づいたのですが、もともと夢を持って前向きにずっと頑張り続けるのを維持できるほど、強くないと自分でもわかったんですね。 目標も無く麻雀ばかりをしている怠惰な生活に絶対戻りたくない、という感情だったり、自分で公言してしまったのだからやらなければ、という意地のようなもので維持しているのかもしれません。
高畑: 追い詰められて。
藤田: そうですね。もちろん理念は高く掲げていますし、心の底から思っています。とは言っても、それだけでずっと自分のモチベーションを維持するのは難しいと思うんですね。多くの人は、目標ややる気を維持し続けるのが難しい。僕も、そういった意味で特別な人間ではないんです。ただ、それをわかっているので目標やモチベーションを維持する方法を自分なりに見つけたということですね。
高畑: 高校までは福井ですよね。僕も福井、講演なんかで何回か行ったことがあるのですが、田舎ののんびりしたところじゃないですか。なかなか大きな気負いが生まれるような雰囲気の町でもないと思いますが。
藤田: そうですね、まったくそんな雰囲気はないですね。
高畑: ないですよね。僕、鯖江も行ったことあるので、本当にのどかなところだと思うのですが、そういうのどかな場所で育ったということが活きていることってありますか。
藤田: 自分ではあまり意識したことはないのですが、あるとしたら、反骨心みたいなものがあるかもしれませんね。都会に対する劣等感なのか、負けたくないという反骨心なのか。ただ、福井にいたときからそんなことを感じていたかというと、そんなことはないです。
高畑: 僕らでもそうなのですが、田舎から東京に出てきて「あ、すごいな」と、大学もそうですが、地方からいろいろなやつが集まってきて、いろいろな生き方があるんだなというのを見ていくなかで、いろいろな価値観が生まれてきたりするわけですが、そういうなかで、大多数はたいていサラリーマンになって一生を終えていくという人が多いなかで、どこかで何かがあったんだと思うんですよ、藤田さんに。
藤田: 一度きりの人生だから、大きなことにチャレンジしたいと思っていたんですよね。高校生まではミュージシャンになりたくて、なんとなく父親のような大企業のサラリーマンでは終わりたくない、と思っていました。それを言うと世の中の方に怒られるのですが・・・。僕の祖父は元々事業家だったのですが事業に失敗してしまい、家族に迷惑をかけたんですね。僕の父親はそれを見て、家族を守るために大企業に入って安定した暮らしを選んだようです。それを僕が見て、また起業家の道を選ぶというのは因果応報とも言えますね。ただ、ミュージシャンになれないとなると他に選択肢が起業家しかなかったので、そう言っていたのですが。
高畑: その当時、大学のころに選択肢が事業家しかないというところは、いろいろ仲間内にも口にしたりしていたのですか。
藤田: 高校のときに、一緒にバンドをやっていた仲間に「将来会社をつくる」と話はしましたが、大学に入ってからの2年間は、すっかり忘れて遊びほうけていましたね。
高畑: そのなかで、どこから本当に自分が本気で事業家を目指そうと思ったのですか。
藤田: 留年して2回目の2年生のときにアルバイトをしていたバーにいた怖いバーテンの先輩に「おれは日本一のバーテンダーになるけど、おまえの目標は何だ」と聞かれたんです。苦し紛れに将来起業家になりたいという話をしたら、それと今やっていることは全然結びついていないから、起業家になるために何かやるか、やらないのであれば学校をやめてバーで働けと言われたんです。その話だけ聞くと、やさしい言葉をかけてくれているようですが、半分いじめに近いようなことをする怖い先輩だったので、ここに就職するのは嫌だ、と追い詰められてバーでのアルバイトはやめ、何か起業につながりそうなことを始めようと思ったのです。ですから、それも決してポジティブな理由ではないんですよね。
高畑: そこでも結局は追い詰められたわけですね。
藤田: そうです。皆ある程度成果を出すとあとから美談にしがちですが、意外と立派な理由ではなかったりするものですよ。ただ、一世代前の事業家の話を聞くと、どこかマイノリティな存在だったりしてものすごい反骨心を持っていたりする人が、成功しているように感じます。特に日本では起業家が異端児扱いされがちななかで、僕は普通のありきたりな4人家族のサラリーマン家庭だったので、そういう経験を持っていなかった。だから意図的に反骨心を持つことを意識していたところはあります。
高畑: 世の中、たいてい多くの人が自分も会社経営するとか、独立したいとか、みんな口ではサラリーマンの人は言ったりしているわけじゃないですか。まったくつまらなくて、おれはもっと好きなことをやりたいよと言っているのだけれども、行動に移せる人は少ないわけですね。そう思ったときに、常に僕は思うのですが、人はやはり、希望を口にするうちは駄目だなと。結局最後は、するか、しないかの二分の一だと思うので、そういう意味では、そういう追い込まれた状況のなかで、藤田さんがやるという選択肢を常に、カードを切ったという。
藤田: なかなか現状が捨てられなかったり、起業を夢見て修行のつもりで大企業に入社したもののそのまま収まってしまう人は、受験勉強に時間を費やしていい大学に入り、大企業に入ると今までの積み重ねを回収しなきゃという意識が働くのだと思うんです。そうするうちに、10年は辞められなくて、10年たったら家庭を持ったりして起業できるような状況ではなくなっている。僕はそもそも、飛びぬけて高学歴でもないし、長い受験勉強の結果大学に入ったというわけでも無いので、捨てるものがなかったんですね。新卒で入社した会社もベンチャー企業だったので同期の半分ぐらいは将来起業すると言っていたのですが、結果実現させる人は限られているので、自分は必ずやろうと思っていました。
高畑: 結局、みんな口ではああしたい、こうしたいと言うけれども、できずに一生を終えていく人が多いなというのは思うのですが。
藤田: 大企業に入社すると経験豊富な先輩方の前で自分の力のなさを痛感させられて、学生時代に持っていた自信を失ってしまうんですよね。下積み時代を経て、やっと仕事がうまくでき始めたころには、自分の力なので会社の名前の力による成果なのかわからない。また、家族や子どもがいたら、とてもリスクを負えなくなる。大企業は、やはり長い年数培ってきた名前やブランドを守るので、保守的な仕事のしかたが身についてしまいがちです。
高畑: 逆にいうと、サイバーエージェントはそういう会社になってきているわけじゃないですか。
藤田: 当社は事業分野がインターネットという成長産業ということもあり新しい事業の立ち上げもしなければならない、市場に新しいサービスを生み出さなければならない。そんな状況下で、大企業に行ったら大企業色に染まりそうな社員でも、当社に入社すると、いきなり子会社の立ち上げを任されたりするのでベンチャースピリットが自然に身についてくる。人はやはり環境ですよね。
高畑: 藤田さん自体は、社員にもわくわく感を持ってやってほしいわけですよね。
藤田: 合理的に考えて、われわれは市場の流れを読んで新しいものに先手を打っていかないと生き残りがかかってくる。今流行っているサービスがあっという間に廃れてしまい、新しいものに着手しなければならないという状況下でベンチャースピリットは持ち続けないといけないですね。
仕事と遊びはイコール。だから楽しめる。
高畑: 藤田さんは、もちろん経営というのは一番にあるにしても、絶対楽しんでいるんだと思います、どこかで。追い込まれている自分も楽しいし、友だちみんなで遊んでいるゲームが難しければ難しいほど楽しく燃えていく。難しいことをやっているというより、遊んでいるのではないかと。
藤田: そうですね。そういえば先日、1週間夏休みをとったのですが、結局やっていることは変わらず夏休みと通常の仕事の時と差は何だったのだろうと思いました。
高畑: 結局仕事が遊びになっているから、普通の人は休日が待ち遠しいわけですよね。たぶん、藤田さんの場合、僕もそうなのですが、いざ休日があるからって、別に趣味がないということではなくて。
藤田: 常に会社のことを考えていますから休日と月曜日の差は特にないですよ。
高畑: ということは、遊んでいるのですよ。
藤田: 仕事とプライベートの区別がないんですね。その域に行き着くのが難しいのかもしれません。
高畑: 多くの人はね。休みがあっても、頭の中で常に考え事をしているし、休んでいるのというと、仕事をしているわけだけど、自分で思うのですが、仕事をしている感覚がなくて、特殊な仕事なので、なかなか後継者を育てるのも大変というところもあるので、なかなか社員をどんどん採ってというのは、育てるのが難しいところなのでできないのですが、経営そのものを藤田さんのところみたいに大きくはないですが、楽しいなと、楽しいという感覚を自分の中でも見失ったら、やっていけないし。前回お会いしたときに、藤田さんは楽しそうだなというのが印象的でした。
藤田: あのときは、たしかストレスについての話をしたんですよね。
高畑: そうですね。
藤田: あのとき、実はストレスがたまっていたことに気付いたのです。ストレスなんてない、とずっと思っていたのですがよく考えたらあるかなと。ストレスが何かがよくわかっていなかったんですね。
高畑: ストレスのない人はいないですけどね。 藤田: 仕事のいきつくところ、最後は忍耐だと思っているので、ぐっといろいろなことに耐えているうちに、ストレスがたまっているんだと。
高畑: それは快感でしょう。
藤田: 快感ではないですけど、ストレスたまっているときってどうなっているんですかね。ストレスが溜まっている状態だとよくわかりますよね、みなさん。目に見えないのに、これがストレスだと。
高畑: みんな、もう口癖になっているだけなので。忍耐というのも、結果的な忍耐なのではないかなと思うのですよ。端から見たら忍耐なのですよ。でも藤田さんのなかでは、例えば受験勉強で言えば、とにかく数をこなして問題を解いていくというより、一つ何か、難しい図形の問題があって、面白いんですよ、それを解くのが。どこに補助線を入れようかなとか、どうやったらこの問題を解けるのかとか、楽しんで向き合って、気づいたら4時間、5時間、一つの問題に付き合っていたという場合、人から見たら「あの子はずっと机に座って4時間5時間一つの問題を解いて、忍耐のある子だよね」と言うのだけれど、本人のなかで問題を解くこと自体が楽しければ、それはきっと忍耐ではないのですよ。そんな感じではないですか。
藤田: でも、95%ぐらいは、ぐっと耐えていますよ、いろいろなものを。投げやりになったり、むちゃしたくなったりすることもありますが、耐える。残り5%は、攻勢をかけるとき。勝負事もそうですよね。流れが悪いときはじっと耐えて、チャンスが来たら勝負する。そういうものですよね。流れがいいときが来るのをすごく待っているような。
高畑: そこがやはり、忍耐なのですか。
藤田: そうですね、そこはサッカーの試合と一緒です。試合の長い時間点が入らず0-0でイライラするけど、最後に1点入ってものすごく楽しかった、みたいな感じ。それと一緒ですよ ね。バスケの試合みたいに大量に点が入らない。90分のほとんどはなかなか入らないのを待っていてて、最後に点が入ったこの快感というのは、耐えた90分があるからこそ大きい。仕事も、同じですね。
高畑: 藤田さんの中では最後の快感を求めているのですね。
藤田: そうです。堕落してしまったり、欲望や衝動に身を任せて仕事をすると、駄目ですね。もともと持っている目的を見失わずに、じっと一つ一つの駒を進めていくという作業は、やはり忍耐の一言に尽きます。仕事をする中で本当に頭に来るときももちろんあるのですが、そこで感情にまかせて行動したらもっと大事な事業が回らなくなったり。先を考えられず、目の前のことを我慢できない人はけっこういるものです。それが、経営者だとしても。でもそれでは駄目ですよね。
高畑: 自分で自分を分析して、自分のこの部分が起業家向きだったなと思うのは、どんなところですか。
藤田: 人をやる気にさせるのが得意なところでしょうか。社長は人動かし、働かせる仕事です。やる気にさせて、燃えさせて、目標を達成させる環境づくりが得意ですね。
高畑: もう少し具体的に言うと、どんな感じですか。
藤田: 例えば、当社はハードワーカーも多いですが、決して無理強いをしているわけではないんですよね。目標のために、自分の意思で、頑張っている。僕が大事にしているのは、全体のうちやる気のある人をマジョリティにするということ。そうすると、元々そうではない人も影響を受けるものなんです。ただ、逆を言うとネガティブな人がいると全体がネガティブに働く。そうさせないために、環境づくりや目標設定、達成した時の表彰方法に力を入れています。例えば、年に2回のMVP表彰では、ホテルの宴会場を貸しきりレッド カーペットを用意し、演出にも凝るんです。そうすると、皆、そこで表彰されることを目指して頑張るんですね。。
高畑: 昔からそういうのは得意だったですか。かたちは違いますが、小学校とか中学校とか。
藤田: そうですね。バンドでもリーダーでしたし、生徒会長もやっていました。でも、会社を始めてからですね、それに気づいたのは。社員を採用することと、その人たちがやる気になることは、ものすごい競争力になる。新卒で入社した会社はそこがとても上手かったので、事業として提供するサービスは他社と大きな差別化はできていないものの、競合他社を追い抜いて急成長したんです。それはものすごく参考になりましたね。
高畑: 藤田さんは、ガンガン行こうぜという感じでもないじゃないですか。
藤田: 今の若い社員は、強いカリスマ性よりも一緒に会社を大きくするチームワークを重視した方が、共感するんです。
高畑: もしかして、藤田さんは人に甘えるのが上手。
藤田: いや~、全然うまくないと思います。起業家として向いていたなという点を挙げるとすると、今までお話したようなことかなと。でも、経営者によっては、全て自分でやってしまう人もいるんですよね。
高畑: そういう感じじゃないですよね。
藤田: そうなんです。僕がいないと会社が回らないような、そんな会社にはしたくないと思って会社を大きくしてきましたから。
高畑: 任せられるということですよね。
藤田: もちろんこの会社規模であれば全てを自分ですることは出来ないので任せるということは当然ですが、会社設立時でも、そういった会社つくりをしようと思っていましたね。
「普通」であることが魅力
-ライバルみたいな存在は、自分のなかで置かれていることはありますか。
藤田: ないですね。
-同じ立場でなくても。例えばすごくかっこいいスポーツ選手がいてとか。
藤田: そういうのがないのですね。特に他の人を意識していないというのもありますが。それに、そもそも経営者で世代が近い人が少ないんです。10歳ぐらい離れていたりすると、いるのですが。
-ちなみにどなたですか。
藤田: USENの宇野さんや楽天の三木谷さんは、10歳年上ですね。そもそも経営者になろうと思った当時、社長業がかっこいい仕事に見えなかったんですよ。青年実業家といえば、派手なスーツを着て、髪はてかてかして、ああはなりたくないなと思っていた。だからこそ、若者が起業家を目指せるような存在になりたいなとは思っていました。最近では鼻息の荒い学生から「藤田さんを追い抜きます」といったことを言われることが増えてきたのは嬉しいですね。ただ、自分が学生の時にそういった存在がいればなとも思います。経営者歴が浅い時は、宇野さんや三木谷さん、GMOの熊谷さんといった業界の年上経営者から刺激をバンバン受けていたのですが、そういう刺激も最近少なくなりましたね。
高畑: 会社だから、もちろん利益を求めていかなければいけないし、商売というのはお金を求めていかなければいけないのだけれども、大人が本気になって遊べば、それが仕事になるという言葉がすごく好きで、僕も自分でこの仕事をやっていても、仕事をしている感がなくて、本気になって考えている自分を楽しんでいたり、苦しい状況になったときにもがいている自分を楽しんでいたり、常に自分がやっていることを本気で遊んでいるという感覚なのですね。だから、もちろん「これを何とかしなければ」と追い込まれたときに、当然すごいストレスが掛かったりしているのだと思いますが、そのストレスさえも楽しいみたいな。たぶん藤田さんもそんな感覚じゃないのかなと思いますが、違うのかな。
藤田: ストレスとプレッシャーを楽しいと言いきれるかというと、やはり社長として1,600人の社員とその家族の人生を背負っている、株主がこんな思いをしていると考えるとなかなか難しい。無責任なことはいえないですし、これを何年続けるのだろう?と考えるにはあまりにもハードですね。とはいえ、そこを真正面に受け止めていたら潰れてしまうので、多少抜けていたほうがいいかもしれません。自分の考えを貫いて、周りの言うことに流されないように、あまり気にしないようにしています。
高畑: 藤田さんのサイバーエージェントという会社が向かう方向は、藤田さんの人生を楽しく趣味と言ってはあれですが、それを追求していく会社ではなくて、最初から1,600人の従業員を抱えて上場して、そっちに向かうという。
藤田: 事業ありきで始めた会社ではなく、21世紀を代表するような会社を創りたい、そう思って会社を設立したんです。事業内容は、会社設立を決めてから考えた。高畑さんがおっしゃったような、社員が働くことが楽しいと思えるような会社にしたいと思っていますが、会社は芸術作品みたいなもの。どういう人が集まってどんな事業をやるか、そのカルチャーのなかでどんな会社になるか変わっていきますから。
高畑: もしかしたら藤田さんのなかではサイバーエージェントというのは、結果、何でもいいけど大きな会社にしていくというなかで、たまたまITだったと。
藤田: そうですね、これから成長する分野を選んだらインターネットだったんです。
高畑: 例えば、これは別の産業でもよかったのですね。
藤田: 今では考えられないですが、そうとも言えますね。ただ、10年間会社を続ける中でインターネットのノウハウも蓄積しましたし、歴史が浅い産業だったからこそここまで成長できた。ポテンシャルを持った産業を選べたと思っています。今では、「インターネットから軸足をずらさない」と宣言しています。
高畑: もともと別にITがすごく好きだったわけではないんですか。
藤田: そうですね。よく勘違いされるのですがインターネットに詳しかったわけでも、技術者だったわけでもないです。
高畑: それはすごいわかりますよ。たぶん、経営者には2ついて、自分が趣味を追求していって、それが大きくなっていくというパターンと、最初から大きいものを作ると、このなかで何が入っているかは、何でもいいのだと、逆に一番伸び盛りの産業を入れてという。どっちも正解、不正解はないと思いますが、じゃあ、藤田さんのなかで最初から今のような大きな会社を作ろうというスタートだったわけだから、今は目標もある程度達成されて。
藤田: いや、まだまだですね。そもそも21世紀を代表する産業であるインターネットの分野で20世紀を代表する会社であるソニーやホンダのように、皆が憧れる大きな会社を自分たちで作ろうとスタートしているので、今の規模というのは、まだ全然ですよ。
高畑: まだまだですか~。
藤田: 規模的には全然及ばない。はるかかなたという感じですね。
高畑: そういう会社を目指していくと、もっともっとプレッシャーが大きくなるわけじゃないですか。
藤田: なりますね。もう、皆それを聞いて入社したり、投資したり、取引したりしているわけですから。会社設立前に覚悟していたつもりですが、やってみてこんなに大変なのかと気がついたんです。でも、上場を目指す若い経営者や学生たちはそこをあまり理解していない人が多いと思います。起業家は、決して楽しいばかりではない。
高畑: そこを聞きたかったのですよ。
藤田: 会社を設立し、上場するということはたくさんのステークホルダーが存在するわけで、相当な覚悟が必要ですよね。しかも、言葉では言い表せないほど大変。ただ、成功すればそれに見合うリターンは当然あって、目標を設定し、それを達成する、そんな会社経営はやはり面白いわけです。
高畑: だいたい僕のなかでは、うまくストーリーができあがったのですが。最後はそこに行き着くのだと思います。プレッシャーが大きいのだけれども。
藤田: 社長業が面白いかどうかで言うと、それはとても面白いですよ。上場企業の社長になりたい、サイバーエージェントの社長になりたい、そう思う人はいると思いますが、やはり面白いです。とても大変だけど。
高畑: やっぱりそこですよね。僕はいつも思いますが藤田さんはたぶん、電車の中で山手線とかで会うと、「おー」という感じですよね。たぶん。
藤田: 普通だと文句を言われるんですよ。
高畑: そこが普通っぽくていいですよ。
藤田: 実はけっこうオーラがないとも言われます。
高畑: そこがいいですよ。初めて、控え室でお会いしたじゃないですか。僕は藤田さんの顔をテレビで見たことがあったはずなのですが、会って気づかなかったですからね。自己紹介されて「あ、藤田さんなんだ」と思って。
藤田: けっこう言われますね。普通とか。
高畑: シャイなんですか。
藤田: いえ、別にそんなことないと思います。あ、でも、まあまあ、シャイだと思います。でも、そんな極度にではないですよ。そんなことを言っていたら、社長業は務まりませんから。
高畑: すごい、普通っぽかったんですよね。
藤田: 実際、普通です。社長たるもの普通だといけないみたいな感じにもなりかねないですが、普通だったと言われてしまう。
高畑: 僕はそこがいいなと思って。あのときに、サイバーエージェントの社長らしき人がいたら、僕はまた連絡したかなと思います。そこがたぶん藤田さんの一番の魅力だと思います。
藤田: そうですか、恐縮です。
高畑: そこだと思います。そこがやっぱり、いい意味で福井の血が流れているのではないかと。僕はでも、それは大事にしてもらいたいなと思うんですよ。
藤田: うさんくさくならないように気をつけています。
高畑: そこなんだと思いますよ。僕なんかも、例えば選手なんか、「高畑さん普通ですね」とよく言われるのですが、それは普通なんだよねと。だけど、そこなんだと思います。
藤田: 普通を保って頑張ります。
高畑: お忙しいところ、ありがとうございました。
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